急がば回らず星を見よう   作:海 真夜

【登場人物】
男♂:
女♀:

男:サークル仲間。温和な性格。
女:サークル仲間。勝気で喜怒哀楽が激しい。



タイトル『急がば回らず星を見よう』


女「だから、この道はさっき通ったって言ってるじゃない!」

男「そんなことないって。ちゃんと木に印つけてるんだから。」

女「バッカじゃないの!あんな、木に石でちょっとつけただけの印なんて、
  すぐに見失ってわかんなくなるわよ。
  だからもっと分かるようにつけてって言ったじゃない!」

男「木に大きな傷つけるなんて、木が可哀想だろう。
  かといって他に印になるような物も持ってないんだから仕方ないじゃないか。」

女「あ〜もぅ、うるさいなぁ!ただでさえ足が痛くてイライラしてるのにぃ!」

男「無理せずじっとしてようって言ったのに、走り出したのはどこのどなたですか。」

女「だってじっとしてたってしょうがないじゃない!
  迷ったって言ってもこんな小さな森、すぐ抜けれると思ったのよ!」

男「だからさ、そもそも『こんな小さな森すぐ抜けれるわよ』って言って
  宿まで近道しようとしたから迷ったんだろ。」

女「だってすんごい迂回しなきゃいけなかったんだもの。ここ通れば直線よ!?
  さっさとみんなと合流して露天風呂に入りたかったの。」

男「それで迷った誰かさんは靴ズレ起こして足を引き摺ってるし、
  とっくについているはずの宿はどこにあるか分からない。
  おまけに日まで暮れてきたっと。」

女「うぅぅ・・・・・・きっと今頃みんな、買出し隊の二人は遅いなぁとか言いながら
  とりあえず夕飯前にお風呂入っちゃおうかとか言って、
  わいわいきゃっきゃ楽しく露天風呂を満喫してるのよ!
  あ〜もぅ、サークルに入って初めての旅行だったのに!
  普段なかなか話しかけられないしっかり出来上がっちゃってた仲良しグループと
  裸のお付き合いでここぞとばかりに親しくなって、
  後々すてきな人とか紹介してもらって、合コンとかしちゃって、
  カッコイイ彼氏をつくってばら色の生活を・・・・」

男「あ〜、分かった分かった。とりあえず落ち着こう。
  ちょっと暗くなってきたし、そんなに興奮してしゃべりながら歩いてると危ないぞ。
  道は細いし、傾斜があるんだからさ。」

女「なによっ。あんたってほんとつまらない男ね。いつも一人落ち着いちゃってさ。
  だからあんたと二人で買い出しなんてイヤだったのよ。
  話しててもちっとも盛り上がらないし、優しくないし・・」

男「おい、危ない。」

女「え・・・きゃぁ」(道を踏み外して滑り落ちる)

男「おい!大丈夫か?」(降りてくる)

女「いったたたた。」

男「だから言っただろ。大丈夫?立てるか?」

女「もう最悪。泣きたい・・・」

男「・・・泣くなよ。悪かったよ。」

女「なにが?」

男「・・・いや、なんとなく。」

女「なにそれ。」

男「・・・・・・あ。」

女「・・・え?なに?」

男「ちょっと待ってて。」(奥の方に入っていく)

女「え?なによ。ちょっと・・・こんなところで一人にしないでよ!」

男「・・・・・・・・温泉。」

女「なに?聞こえない。」

男「こっちに温泉が湧いてる。」

女「え?温泉?」

男「うん、湯気が見えたからもしかしたらって思ったんだけど。
  すごいな。天然の露天風呂だ。小さいから足湯か。歩ける?来てみなよ。」

女「う、うん。」

男「うん、ちょっとぬるいけど靴擦れにはちょうどいいだろう。靴ぬいで足つけてみるといいよ。
  俺も・・・・・よいしょっと。あ〜温ったけぇ。」

女「・・・うん・・・・あ、気持ちいい。」

男「だろ?すごいラッキーだな、俺たち。」

女「ラッキー?迷子なのに?」

男「だって迷子にならなきゃこんな小さな温泉絶対に見つけられなかっただろ?
  宿にある人口の温泉よりもこっちの方が貴重だと思わない?」

女「そうかなぁ・・・」

男「空見上げてみろよ。もう星が見える。満天だよ。」

女「え・・・?あ、ほんとだ・・・」

男「迷子になったっていい事はいっぱいあるってことだよ。
  気持ちのいい天然温泉、空には満天の星、向こう側には風情ある宿の明かり・・・ 明かり!?」

女「あ!!!宿だ!!」

男「暗くなってきて明かりが灯ったから・・・なんだ、あんなに近かったんだ。」

女「あはは、なんか、さっきまで騒いでたのがバカみたいだね。」

男「急がば回れっていうけど、回らずのんびりってのもありだな。」

女「なにそれ。」

男「よし、帰るか?」

女「うん・・・でも、もうちょっとだけ・・・。」

男「構わないよ。急がば回らず星を見よう。」

inserted by FC2 system